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【生きる 働く 第12部】障害者 個性生かして<2>精神疾患 支援を模索

 オフィスの玄関に入ると、一斉に「いらっしゃいませ」「こんにちは」と明るい声が響く。

 IT関連企業「アイエスエフネット」(東京)が、障害者雇用促進のために設立した特例子会社「アイエスエフネットハーモニー」。従業員113人のうち100人が障害者。うち5割が統合失調症やそううつ病など精神障害がある人たちだ。

 親会社からの事務作業に加え、パソコンの動作確認や設置など外部からの仕事も請け負う。2008年の設立から2年目で黒字化した。

 特徴的なのは、特性の異なる障害者がチームを組み、補完しあっていることだ。精神疾患は気分や体調に波があり、無理をすると再び心の不調を招きかねない。チームだと一人で抱え込んで仕事がストップすることもない。勤務時間の短縮や休業に、柔軟に対応できる。

 うつ病などで休職していた社員が勤務時間を少しずつ延ばし、軽作業から復帰を目指す部署もある。その部署の30代男性は「復職は不安だったが、一歩ずつなので無理なく働けている」と前向きに語る。

 企業で働く精神障害者は、急増している。年々増え、15年は前年比25%増。背景には18年度の制度改正に向け、採用側が精神障害者に目を向け始めたことがある。

 企業や自治体は、一定割合以上の障害者を雇用する義務がある。この「法定雇用率」の対象は現在、「身体」「知的」だが、18年度からは「精神」も含まれる。現場では、単なる社会的責任にとどまらず「どうすれば戦力にできるか」という模索が始まっている。アイエスエフネットの杉岡和彦専務(52)も「精神障害に対する正しい理解と配慮さえあれば、社会人経験者も多いため、即戦力になってくれる」と力を込める。

 ただ、「急増」とはいえ、障害者の雇用者全体に占める割合は、身体7割、知的2割に対し、精神は1割。全国に精神障害者は約320万人おり、就労しているのはわずか1%にすぎない。身体、知的と比べて「体調に波があり、業務を安定的にこなせるのか」「症状が人によって異なり、配慮が難しい」など、企業側の懸念は根強い。

 障害者職業総合センターの14年調査によると、精神障害者の約半数が6カ月以内に退職。障害特性に対する理解不足のほか、職場定着への支援体制が整備されていないことが背景にある。

 障害のある従業員のうち8割近くが精神障害者、という企業がある。生活雑貨店「無印良品」を展開する「良品計画」(東京)。従業員約6千人のうち289人に障害があり、精神障害者が77%を占める。

 同社は09年、「ハートフルプロジェクト」として直営店舗での障害者雇用を始めた。総務人事担当の成澤岐代子さんは「精神障害者を受け入れている企業が少ないため、優秀な人材が埋もれていて、うちで成果を上げることができたのかもしれない」と語る。当初は客と接する機会の多い店舗での雇用を不安視する声もあったが、今では大きな戦力となっているという。

 力を入れているのが、働き始めたときの支援だ。心配なことがあれば、障害者職業センターにジョブコーチを依頼する。勤務時間も週20時間程度からスタートし、本人の体調や希望に合わせて働ける。人事評価制度や昇給もあり、意欲向上につながっている。

 入社時は、得意なことや苦手なことをまとめたプロフィル表を作成してもらう。仕事上、特に注意が必要な点や特性は「情報共有シート」に記し、店舗の従業員で共有する。日々起こったこと、気付いたことも書き込み、職場全体で働きやすいように工夫や改善を続けている。

 成澤さんは「一緒に働く社員も、自分の仕事を見直すなど、良い影響が出てきた。作業全体の効率アップにもつながっている」と評価している。


=2016/06/01付 西日本新聞朝刊=

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