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【生きる 働く 第12部】障害者 個性生かして<1>「雇用義務」から戦力に

 福岡市・天神にある医療関連会社「総合メディカル」。社員たちが、パソコンへのデータ入力や郵便物の発送、名刺作成などの作業に追われていた。他部署の後方支援を行うこの「業務支援グループ」は社員33人中、30人が障害者雇用枠で採用されている。

 オフィスでは、音に敏感な社員は耳栓をして働く。通常の椅子では集中できないというアスペルガー症候群の男性には、正座のような姿勢で座れる椅子を導入した。部署内には、障害のある社員の相談に乗る「ジョブコーチ」と呼ばれる6人がいる。その一人、松隈浩史さん(35)は「得意なことに光を当て、特性に応じた働き方ができるよう支援している」と話す。

 例えば、統合失調症の30代男性。遅刻や欠勤が増えたため、週4日の清掃作業だった仕事を見直し、週2日は事務作業に入ってもらうことにした。男性は「気持ちにめりはりが出て自己肯定感も生まれた」と言い、勤務状況も安定したという。

 厚生労働省によると、従業員50人以上の企業で働く障害者は、昨年6月1日時点で約45万3千人。前年から5・1%増え、12年連続で過去最高を更新した。

 障害者雇用促進法は、障害者の雇用を企業に義務付ける。現在の法定雇用率は、従業員50人以上の企業は2・0%、国や自治体は2・3%。達成している企業の割合は47・2%だ。従業員100人以上で、達成していない企業は、納付金を国に納めなければならない。

 法定雇用率は5年ごとに見直され、2018年度からは、精神障害者の数を考慮した新たな雇用率が適用され、数値が引き上げられる見込みだ。

 総合メディカルは、前回03年の法定雇用率引き上げをきっかけに、外部専門家を招き、本格的な障害者雇用推進に着手した。今月1日現在、従業員3446人中、障害者は52人。算定式に当てはめた雇用率は2・1%だ。

 業務支援グループシニアマネジャーの松尾謙師さん(57)は「法令順守という観点でスタートしたが、障害のある社員たちの仕事ぶりに社内の信頼も高まり、今では会社に欠かせない存在になった」と評価する。

 2020年までに障害者千人を雇用し、給料25万円を支払う-。IT関連企業「アイエスエフネット」(東京)の渡辺幸義代表(52)は6年前にこう宣言した。今では、グループ全体の従業員3193人のうち、543人が障害者だ。

 それを可能にしているのが、障害者用の仕事の徹底的な「切り出し」だ。全部署で仕事を洗い出し、重要度やセキュリティーも踏まえて細かく仕事を分け、その仕事をできる人にしてもらう。加藤寛副社長は「障害者は、戦力にならないと考えるのは偏見。特性に応じた仕事を考えれば、高い能力を発揮できる」と力を込める。

 例えば、発達障害のAさんは書類のチェックを任せると、人一倍の集中力とスピードでミスを見つける。知的障害のBさんは、書道が得意で名刺用の名前書きを黙々とこなす。社内に能力を生かせる場がなければ新しくつくろうと、カフェや農業など次々と新事業も始めた。

 障害者雇用促進のため設置した特例子会社「アイエスエフネットハーモニー」には、月2回、親会社の社員が訪れ、障害のある社員から仕事を学ぶ。ハーモニーの社員も、親会社に派遣されて業務を行う。障害のある人も、ない人も、共に働く-。アイエスエフネットでは、当たり前の風景となっている。

    ◇    ◇    

 障害者雇用促進法が改正され、4月から雇用において、障害者に対する差別禁止と合理的な配慮が義務付けられた。働く障害者は年々増え、ITの発達や人手不足などが後押しし、活躍の場が広がる。企業の取り組みや支援体制、新たな働き方を模索する人たちの姿を追った。 


=2016/05/31付 西日本新聞朝刊=

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